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安芸吉田簡易裁判所 昭和32年(ハ)9号 判決

原告

山根開

被告

竹下悟 外一名

主文

被告等は各自原告に対し、金参万弐千九百五拾円を支払え。

訴訟費用は被告等の連帯負担とする。

事実

(省略)

理由

被告竹下悟は、自動車による貨物輸送業者で、同藤井正美は、自動車運転者として被告竹下に雇われ、その業務に従事中、昭和三十一年十二月十五日午前五時頃、被告竹下はその所有にかかる普通貨物自動車を、被告藤井に運転させて、空車で広島市から高田郡吉田町に向つて国道を、時速約四十粁で進行中同町大字山手一〇四九の一原告方(国道の西北側に道路を前にして東南向きの衣料品店)前にさしかかつたが、早朝とはいえ、夜も漸く明けそめた時刻で車馬の住来も途絶え、進路は何等の障碍物なく、殊に同所は、長距離に亘つて、直線道路であるため、運転者である藤井は、すつかり緊張を欠ぎ、前夜来の疲労も出て、睡魔におそわれ正常な運転ができない虞があつたが、このような場合には自動車運転者としては、一時停車して外気に触れるとか、または、洗面する等適切な方法によつて、居眠り運転による事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに拘らず、同被告はこれに違背して、何等の措置を構ずることなく、不注意にも居眠りしながら右自動車の運転を継続したため操縦を過つて、前記地点において、同自動車左側前輪を、該道路左肩(道路西北側)から外し、原告店舖内に突入せしめたため、同店舖を破壊し、また同所に在つた同人所有のミシン機械その他の物品を破損し、かつ店頭にあつた衣料品等を汚染したこと等によつて原告の蒙つた損害を被告等において賠償すべき責務があることについては当事者間に争のないことである。

そこで、原告主張の本件損害額について考察するのに、被告等は、請求の原因中二、の(一)、記載のイ、ホ、及び(二)、イ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、卜、チ、並びに同(三)、イ、の各損害額を否認し、(一)、ロ、は金五百円、同ハ、は金百円、(三)ロ、は一日金千円の割合による二日間合計金弐千円を各限度として、原告の各損害額を認めてその余を否認し、(四)、は不知、(一)の二、のみはその損害を認める旨抗争するが、いずれもこの事実を裏書する何等の立証なく、到底右主張を肯認することはできない。もつとも原告は請求原因二、の(三)、ロ、の本件事故により原告店舖破壊のため五日間休業の止むなきに至り、一日金弐万千円の割合で合計金壱万円の得べかりし利益を損失した旨主張するので、この点を検討するに、原告本人尋問の結果に徴すれば原告主張の損害額を認め得られるから、原告は、被告藤井の本件不法行為(過失)により原告所有の家具類の破壊(一)、により金五千六百円及びその商品である衣料品(二)、を汚染して金四千七百五十円、並びに原告の得べかりし利益((三)(四))金弐万弐千六百円以上合計金参万弐千九百五拾円相当の損害を蒙つたことを肯認する。従つて同被告は、民法第七百九条により原告に対し右損害金の賠償義務あることは明かである。また被告竹下は、自動車による貨物輸送事業のために被告藤井を使用していて、その事業の執行につき同被告が第三者である原告に前記損害を加えたのであるから同法第七百十五条により右損害賠償の責務があるものといわねばならない。

それであるから原告が被告等に、各自金参万弐千九百五拾円の支払いを求める原告の本訴請求は、その理由があるものとゆうべく、よつてこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木静夫)

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